先日、麹菌を用いた日本の「伝統的酒づくり」がUNESCOの無形文化遺産に登録されるという嬉しいニュースが飛び込んできました。この登録は、日本の伝統的な醸造技術と文化が国際的に評価されたことを意味します。麹菌は、日本酒や焼酎などのお酒だけでなく味噌、醤油などの発酵食品の製造にも欠かせない存在であり、その重要性は古くから認識されてきました。
麹菌の魅力
日本の醸造食品に用いられる麹菌(こうじきん)は、学名ではAspergillus属に分類され、Aspergillus oryzae(黄麹菌)、Aspergillus luchuensis(黒麹菌)、およびAspergillus luchuensis mut.Kawachii(白麹菌)が含まれます。現在、黄麹菌は日本酒やその他発酵食品(甘酒、醤油、味噌など)に広く利用されています。一方で、黒麹菌やその突然変異株である白麹菌は焼酎や泡盛の製造に多く用いられています。この背景には、日本酒が主に本州で盛んに造られてきたのに対して、高温多湿で腐敗リスクの高い九州地方では焼酎造りが発展してきたという地域ごとの特性が関係していると考えられています。麹菌は主に米、大麦、大豆などの穀物に生育し、デンプンを糖に分解する能力を持っています。この過程は、発酵の第一歩であり、アルコールや酸を生成するための基盤となります。日本酒や焼酎の製造過程では、麹菌が原料中のデンプンを分解し、酵母がそれをアルコールに変えるという、非常に精巧なプロセスが行われます。また、麹菌はアルコール生産や腐敗防止に寄与するだけでなく、タンパク質を分解することで酒類や食品の香気成分生成にも重要な役割を果たしています。このような伝統的な技術は、何世紀にもわたって受け継がれてきた日本文化の重要な一部です。
糸状菌研究の貢献
麹菌の発酵産業の発展には、糸状菌研究をはじめとして様々な研究が大きく貢献してきました。発酵産業に用いられる麹菌に関しては、全ゲノム解析などの分子生物学的研究によって、安全性が確認されてきました(2006年に日本醸造学会で「国菌」と認定⁽¹⁾)。これらの積み重ねが日本の発酵食品の世界への広がりに寄与したことは間違いありませんし、さらには今回の世界無形文化遺産登録にもつながったのではないかと思います。
まとめ
麹菌を用いたお酒のUNESCO無形文化遺産登録は、日本の発酵文化の重要性を再認識させてくれる出来事です。これからも麹菌や糸状菌の研究が進むことで、新たな発見や技術革新が生みだせると期待しています。糸状菌研究とのつながりを感じながら、年末年始の忘年会・新年会シーズンには、ぜひ体質に合った適正飲酒を心掛けつつ、日本の伝統的なお酒(日本酒・焼酎・泡盛)を体験してください!
文責:戸所(月桂冠)・都甲(三和酒類)
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